ビジュアルコミュニケーション辞典
荒井:本の話になると止まらないといった感じですね。
秋山さんにとって本は掛け替えのない栄養素、まさになくてはならないものですね。
そして先ほど、先人から学んだこととして「丁寧にじっくりと腰を据えてやって行けば良い」とおっしゃっていましたが、何か長期的に取り組んでいるプロジェクトなどありますか?
秋山:本には文字を中心としたものと、図像(イラストレーション)を中心としたものがあります。
ぼくはイラストレーションを「人間の持っているもう一つの言葉」と定義しました。ということはイラストレーションも文字と同じように体系化できるはずだという仮説のもと、「グレートキャラクター」と題した作品集をまとめています。
現時点で11巻目、通巻3240ページになり、掲載総作品数は5792点となります。
それを「ビジュアルコミュニケーション辞典(視覚伝達辞典)」にすることを強く願っています。つまり、イラストレーションの方からアプローチした文字の辞典とは異なる絵の辞典の制作を続けています。人生は短いのでこれはおそらく完成しないでしょう。しかし、この試みは次世代に大きな影響を与えるだろうと思っています。
例えば、愛という言葉の意味は、
1. 親兄弟のいつくしみあう心。ひろく人間や動物への思いやり。
2. 男女間の相手をしたう情。恋。
3. 可愛がること。大切にすること。
4. 愛欲。愛着。割愛。強い欲望。
です。
これらはイラストレーションにすることで可視化できます。また、言葉のみでは伝えることのできない愛情の意味をイラストレーションでは、きめ細かに伝えることもできます。そうすると言葉と絵の違いが明快になり、両者が持っている能力も理解が出来るのです。
そのような理解をさらに深める辞典を制作したい、また自分ひとりで描いたイラストレーションのみで、どれだけの広がりをみせる事ができるのか実感したい、そのような欲望がぼくの中にはあります。その欲望は多くの人に貢献できるのではないかと考えています。そしてこれこそがぼくの生涯の研究であると思っています。しかし、あまりにも時間がかかり過ぎて、どうすることもできませんが(笑)
メッセージ
荒井:まさに終わりなき創作の旅ですね。それでは最後に次世代のクリエイターに向けてメッセージをお願いできますか。
秋山:インターネットの出現によって通信の考え方が大きく変わりました。
プライベートな情報までもが世界に向け発信され、影響を与えることが当たり前のようになってきています。
インターネットによって大きな地球なのに、まるで小さな地球儀のような感覚で通信が可能になりました。
ということは国境や政治的な秘密などが権力者の思惑とは異なり、情報の流出が一般化し、国境と呼ぶラインが物質的な面と心の面では異なるようになってきているのだと思います。そのギャップを埋めるのが国際交流によって獲得される信頼感です。
信頼感が壊れていくと疑心暗鬼になり、誤解や行き違いによって争いごとが多くなります。
今後の若者に期待しているのは、どこが違うか、どこが共通するのかを明解にし、その溝を埋める具体的な活動をすることです。ぼくたちがやっている芸術活動は、まさに共通する美意識を構築する場の設定のように思えてなりません。
それは深い信頼感に基づくコミュニケーションの助けになることは間違いありません。
荒井:美術活動を通しての国際的な信頼感の構築。世界平和につながるような壮大なテーマですね。
秋山:まず相手が作り上げた作品を理解することによって、聞こえない声を探し出し、聞くよう集中する。
そこにある感動的なメッセージに触発され、今度は自分の独自性のある表現で作品を作り返す。
その行為を通じてお互いに尊敬しあい、友情と信頼という言葉に辿り着く。「それは遠い世界にいる人のはずなのに、隣にいる人のように感じるような実感を作り上げることができる素晴らしい行為です。」
ぼくはずっとそうしてきましたし、それがぼくの喜びでした。
そして、その活動こそが国際的な信頼と尊敬を作ることにつながると信じています。
だからぼくは自分の考えや感じたことを、作品によって簡単には言葉にできない感情を思索し、根本的あるいは本質的なことと思われる世界をイラストレーションによって表現し、ポスターというメディアで発表し続けてきました。
厳しい創作活動から生まれる信頼感や友情は簡単には獲得できません。
ですから自分自身を本当に掘り下げ、独自の表現方法を生み出し、相手の作品を注意深く観察し、言葉にならない声を表現するという創作活動を真摯に継続していかなければならないのです。
なかなか到達することはできませんが、一旦そのような関係が生まれると一気に様々な国のクリエイターと尊敬をもとにしたコミュニケーションが生まれます。
是非、みなさんもそのようなコミュニケーションの成立を目指して表現行為を行ってほしいと考えています。
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